■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 
   夜の声
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 


<side 悠希>

「・・・ふ・・・っあ」
重なり、混じりあう、熱い吐息。蹂躙にも似た強引な口接けから解放される頃には、カイはすっかり息を乱していた。
漏れる呼吸はすでに浮かされていて、自分のものと思いたくない甘い声に、目を伏せる。
しかしソルはカイを離すつもりなど毛頭なく、顔を伏せた彼に構わず、重苦しい着衣を乱しにかかった。
大きな手が服にかかり肌に触れる。カイはそれには逆らわず、何となく空いている片手を、ソルの片手に伸ばした。
絡まる指。自分のそれとは全く異なった感触を持つそれに、カイは不思議そうな視線を向けた。
あどけない子供のような視線に、ソルが僅かに苛立った声を出す。
「何だ、坊や。珍しいモンでもねぇだろうが」
「・・・大きな手だと、思っただけだ」
行為を中断された不機嫌を隠そうともしないソルに対して、カイは小さく呟いた。
違いがあるのは手に限ったことではない。体格からして差があるし、筋肉の付き方も大分違う。
同じ剣の道を進んでいるはずなのに、どうしてこうも違うのだろう。
単純な疑問を顔に浮かばせるカイに、ソルは深い溜め息をついた。
「てめえが俺と同じになる必要はねえよ・・・」
「・・・・・」

どこか寂しげな響きのある声だった。赤い双眸に揺らめく欲望の光は、全く変わらないけれど。
カイは無言のまま、自分の顔の位置まで手を持ち上げた。
節くれだった、武骨な手だ。激しい戦いを生き抜いてきた強い手。そして自分には優しく触れる、不器用な手。
「同じには、なれなくても・・・」
呼気を吐き出すのに混ぜて、カイは切なげに囁いた。青緑の瞳で、一瞬だけソルを見上げる。
「私が、お前に近付きたいと思うのは・・・いけない事なのか?」
「・・・・・」

ソルの鮮やかな紅い瞳が、軽く瞠られた。しかしカイはすぐにまた目を伏せてしまい、それを見ることは叶わなかったけれど。
持ち上げた手に、そっと、唇を触れさせる。
「お前を・・・もっと、知りたいと思うのは」
「・・・全く、我侭な坊やだぜ」
カイの呟きに、ソルは呆れた声を漏らし、低く笑った。
この、純粋培養の子供は、気がついていないのだ。自らがどんな感情で自分の前に立ち、そして自分を受け入れようとしているのか。
それはきっと、人間のもっともわかりやすく、また御しがたい感情であるのだろうに。
こういった青年の幼さは、ソルには眩しいものだった。目を細め、絡んだままの手に力を込めてカイの動きを封じる。
「知りたけりゃ教えてやるよ、その内にな。・・・泣くんじゃねえぞ」
「わ、私がいつ泣いた!」
「これから泣くんだろ」
さらりと言ってのけるソルに、カイが悔しげな表情を見せた。が、噛み締められたその唇は反論を紡がない。
ソルは勝ち誇った笑みでカイを見下ろした。
「まあ、てめえの鳴き声は悪くねえがな」


シーツにさらりと流れる金の髪。青緑の瞳はなおも透明さを失ってはおらず、詰めた吐息は切なげに震えていた。
身をゆるりと動かすと、カイが大きく体を逸らせて喘ぐ。
「・・・っく、ん・・・!」
仰け反った喉のあまりの白さに、眉根を寄せて快楽を堪えようとするその表情に、ソルは嗜虐的な思いに捕らわれる。
この青年は、何もかもがあまりにも綺麗で、だから汚したくなる。子供じみた思いだった。高みにいる彼を、自分がいるこの場所まで堕としめてしまいたいと。
逃げをうつ腰を強く引き寄せて、抉るように突き上げれば、悲鳴のような声が漏れた。
涙の滲んだ双眸が、恨めしげな光をのせてソルを見上げる。
「や・・・、ソル・・・っ」
「・・・いつまでたっても慣れねぇな、てめぇは」
―――それに、少しもわかっていない。
嫌だといい、溺れまいと必死になっているその様子が、更に強く自分を煽るというのに。
喉を鳴らし、からかうようにそう呟いてやれば、頬がさっと赤味を増した。一瞬だけ剣呑な光が瞳に宿り、睨みつける強さで自分に向けられたが、けれどそれも、一際強い律動に掻き消えた。
剣士としては細い、鍛えられているとはいっても自分よりずっと華奢な体を、些か乱暴に揺すりあげる。
「あ、ぁ・・・・・ふ、うぁ」
「もっと声出せよ・・・」
「だ、れがっ・・・!」
先程のやりとりを気にしてであろう、カイは片手を口元にあて、指を噛むようにして声を抑えていた。
嫌々をするように首を振るカイに、ソルは軽い溜め息を漏らし、唾液に濡れ赤く痕のついた手を取り上げて、自分の口元に引き寄せた。カイが怪訝そうな顔になってそれを見つめる。
ソルはふん、と鼻を鳴らして、つまらなそうに声を低くした。
「・・・痣になってるじゃねぇか」
「っ・・・だ・・って、それは・・・・・お前が・・・」
「坊やが無理なんかするんじゃねえよ。素直に声出せ」
「な・・・ソルっ!」
気圧されたようにカイが目を瞠るのに構わず、ソルは白い指先にそっと舌を這わせた。思わぬ事にビクリと震える腕をしっかりと捕らえ、痕になってしまった部分を丁寧に舐めあげる。
時折、わざと大きく濡れた音を立てながら進められる行為に、カイは身動きも取れず、また痺れにも似た快感を覚えて、泣きそうな表情で顔を逸らした。
懇願の声が切れ切れに漏れる。
「嫌だ・・・もう、やめ・・・」
「・・・泣くんじゃねえって言っただろうが」
「泣いてなどいないっ・・・」
「・・・・・全く、敵わねぇな」
ソルは小さく嘆息すると、カイの手を離し、その代わりに腰を支えて身を起こさせた。繋がったままのその動きにカイは呻き、またきつい締め付けにあってソルも低く息を漏らす。
正面から向き合う形になり、ソルは薄く笑ってカイの目元に口接けた。滲んだ涙を舐め取る。
「本当に、我侭な坊やだぜ」
「わ、私は坊やじゃないと、何度言えば・・・あっ」
「もう黙ってろよ・・・カイ」
合図のように名を呼んで、強く突き上げる。透明な青緑の双眸からは、やはり透き通った雫が飛んで、窓から差し込む月明かりに晒されたそれは宝石のように煌いていた。
自分がどう彼を堕としめようとした所で、彼は変わらないのだろう。そしてそんな彼だから、自分も目が離せなくなってしまうのだ。
けれど、自分の腕の中にいる今だけは。―――今だけは、自分だけのもので。
らしくもなく柔らかな微笑みを浮かべて、ソルは強くカイを抱き締めた。


<side 咲>

激しく揺さぶられて、自分がどうなっているのかもわからないうちにいつも終わりは来る。
そのあと、意識を保っていられることは稀で、今日も気がついたら彼の腕の中に抱かれて眠っていた。
軽く身動ぎして、居心地のいい空間を作り出す。
彼の腕の隙間、彼の鼓動が聞こえる場所を。

ソルに抱かれることが別に好きなわけではない。
むしろ、その行動には快楽と同時に恐怖や痛みが伴い、カイを戸惑わせる。
それでも、幾度となく彼に抱かれているのは、この時間が欲しいから。
驚くほど無防備に聞こえる寝息と、耳の傍の心臓の音。
近付きたくて近づけず、追いかけるだけだったあの頃が嘘のようだ。
・・・こうしている今だって、本当に彼が考えてることなんて良く分からない。
彼が私に求めるものと、私が彼に求めるものは違うのかもしれない。
それでも・・・今、この時だけはそれが重なる気がして、いつまでもこのままでいたい、などと埒も無く思う。
そのままゆったりとしたリズムを聞いていると眠りが近付いてくるのが分かった。

きっと、彼と自分の距離は、本当はもっと遠いのだろう。
でも、今だけは、このままで・・・。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 
GO TO TOP→