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   plaything   ・・・act 6
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会議室の大きな机には不似合いなほど小さな身体が、よく通る声で作戦の内容を指示していく。
その姿を横目で眺めつつ、ソルはひとつ欠伸をかみ殺した。
普段なら参加しない退屈な作戦会議だが、少しの気まぐれと、近付く大きなギアとの戦いに緊張するカイの頼みで、ソルは珍しく会議に参加していた。
それに作戦そのものに参加しなくても、回りがどう動くのかは知っていた方が都合がいい。
…そう、戦い以外の自分の目的のためにも。
考え事をしている様子を上の空だと思ったのか、カイが無言で咎めるような眼差しをソルに送ってきた。
戦いが関連したときに見せるカイの表情は、綺麗だ。
凛とした眼差しは年不相応なものではあったが、ソルはそれを綺麗だ、と思う。そしてそれを曇らせたい、汚してしまいたいと思っていたのも間違いなく自分だったのに。
何度も組み敷いた身体がそれでも汚れずに自分を追うことが、今はこんなにも自分を駆り立てる。
暫く忘れていた感覚は心地よくもあったが、それ以上に焦りに似た感覚が胸を占めるのをソルは自覚していた。
これ以上、深入りできない…深入りさせることも出来ない。自分がここに留まる目的は本来ひとつだった筈だ。
―――聖騎士団の秘宝「封炎剣」、それを手に入れること。
ここらが潮時だろうな、と思い始めたことを、ソルはカイに伝える気はなかった。

「ちゃんと、聞いてたんですか?」
「…ああ」
指示のために纏められた書類を片付けながら、カイがソルを睨みつける。会議が終了し、人も疎らになった会議室は先ほどまでの熱気が嘘のように静まり返っている。隣にある資料室に書類を整頓しに戻るのを手伝わされながら、ソルはカイの後を追った。
「作戦開始は午後、先行部隊が左側から回り込んでギアの退路を切断、そして残った本隊と挟み撃ち」
淀みなく作戦内容を復唱してみせるソルに、カイは安心したように微笑を零した。
「今回は、大きな戦いになりますから…それでも、誰にも死んで欲しくないんです」
…勿論、貴方にも。
無言のうちにそう伝える微笑に、ソルはまた、焦りを覚えてその瞳から眼を逸らした。
チャンスなのかもしれない、この戦いが。聖騎士団総軍勢の殆どを費やした大きなものになるこの戦いは、言い換えれば本部に残る人間が少なくなることを意味する。勿論それを背後から突かれるなどということがないように警備は万端であろうが、それはあくまで外からの侵入に対してのものだ。内部の人間がそれを破ることなど容易いだろう。その隙を突いて剣を奪い、ここを去る。それだけのことだ。
そうと決めれば、後はその日を待つだけだ。
来るべき日を数えて黙り込んでしまったソルの傍に、カイは書類を持ったまま立ち竦んでいた。狭い資料室は溢れ返る書類の山に遮られ、まだ人が残っている筈の隣室を伺うことも出来ない。すぐ身近に感じるソルの体温に先ほどまでの戦闘への昂揚感は消え、代わりに別の動悸がカイを襲った。こちらを見ようとしないソルを見上げ、その指先や唇を視線の中に捕らえる。
…あの手に触れられていたのかと思えば、それだけで浅ましい感情が一気に身体の底から湧き上がってくるようだった。本当は、戦うためにあるのかもしれない手が自分の肌を撫で、唇が触れる。
鮮明な記憶に頬を赤らめればソルはそれに気付いたのか、逸らされていた筈の視線が自分へと注がれている。それにますますカイは頬を赤らめて手に持ったままの書類を強く握り締めた。
「…何、人の事じろじろ見てやがった?」
「別に、何でもないです…」
答えた声は既に欲情を滲ませていて、カイは自分の声に恥らうように眼を伏せたが、ソルに強引に顎を掴まれて目を合わせられると隠し切れずに潤んだ瞳をソルに向けた。
「分かりやすい奴だな」
掴んだ手がそのままゆっくりと首筋を辿れば、抵抗も出来ずにカイの身体が小さく震える。その感覚に従い、カイはゆっくりと目を閉じた。その瞬間、熱い感覚がカイの唇を覆った。
「んぅ…っ」
あの日教えられた熱さのままに、ソルの唇がカイの唇を侵略していく。強引に口内を開かせてその中を探れば、反応しきれないカイは苦しげに吐息を洩らした。
「まだ慣れねぇのか」
「だっ…て…」
短いが深い口付けに耐え切れず、唇を離した途端カイは大きく息をつく。ほんの数秒間のことにも関わらず、目許は潤み、顔の赤さは耳まで広がっていた。
「そんな顔じゃ外にも出れねぇだろ、おい」
「………っ」
からかう様に告げられても、赤くなった顔は隠しようがなく。カイは手に持った書類を両腕で抱えてせめて顔を隠そうとするが、その腕を軽くソルに押さえつけられるとその感覚にすら震え、ソルを煽った。
「あと顔だけじゃ、ねぇとかな」
楽しそうにソルは囁き、片手を遠慮無くカイの下半身に伸ばした。流石にそれには抵抗しようとしたカイだが、壁際の狭いスペースでは身動きもとれず、両腕に書類を抱えた状態ではただソルの動きに身を任せるしかなかった。
法衣、そしてズボンの上から軽く触れられただけで自身が緩やかに反応を示してることに気付いたのか、ソルは更に遠慮無くそれに手を這わせる。明確な意図をもってその部分を撫でる動きに、カイはいたたまれずに唇を噛んだ。
「んうっ…や、ぁ…ソル…」
「テメェで誘っておいて何言ってんだ」
「そんな、誘ってなんて…!!」
思わず大きな声で反論を返そうとして、カイは途中で言葉を詰まらせた。誘った、といえばそれは否定出来ないのかもしれない。キスして欲しいと思ったのは本当なのだから。それに、こんなところで大声を出せばまだ隣にいるかもしれない他の騎士たちに声が聞こえてしまうかもしれない。
身体も心も逃げ場を失って黙り込んだカイに、ソルは更に指先で愛撫を重ねた。
「もうこうなっちまうと動けないよな、坊やは」
ソルの手によって硬さを増したその部分に冷たい室内の空気が触れる感覚にカイは驚き、それがそこが露にされたせいだと気付いて顔を蒼ざめさせる。
「…っ!お願いです、こんなところで、駄目…!!」
「駄目なのは坊やの方だろ」
冷たく言い放たれ、直にソルの手が触れる感覚に声を殺しきれずにカイは嬌声をあげた。
「ふぅ…ん、あ、あぁ…!」
唇を噛んでも堪え切れない吐息が狭い室内に反響し、カイはその音に首をすくめて余計に煽られそうになる自分を戒めた。しかしその間も間断なくソルの愛撫は続けられ、与えられ続ける感覚にカイの膝から力が抜けていく。立つ事すら必死だといったその様子に、ソルは法衣の裾を捲りあげていた片手をカイの腰に移し、支えてやった。
「…邪魔だな」
しかし纏わりつく裾を捌ききれず、結局放した裾をもう一度持ち上げ、無理矢理にカイの口元に押し付けた。
その行動の意味が掴みきれず、カイは不安気にソルを見つめる。
「唇噛むよりましだろ、ついでだから咥えてろ」
そう言ってソルは反論させる隙も無く、持ち上げた裾を口に含ませた。自らの法衣を咥えるという行動の嫌悪感に暴れるカイを強い愛撫で黙らせて、そこでソルは思いついたように姿勢を下げ、カイの欲望に直接舌を這わせた。
「――――――っ!?」
今まで感じたことのない感覚に、カイは驚いて身を捩らせた。細い手足が抵抗しようとして暴れたが、ソルはそれを片手で往なしつつ、容赦なく舌先でカイを追い詰めていく。敏感すぎる身体にその感覚は耐えがたいものだったのか、一度大きく痙攣したかと思うとカイはすぐにソルの口内に欲望を吐き出した。
「は、坊やじゃこんなもんか」
それを余裕の顔付きで受け止めてやり、わざと大きな音を出して飲み込んでやれば予想通りカイは羞恥に顔中を染めて硬く目を閉じた。首筋まで赤くしたその様は欲望を煽るというよりは、むしろ痛々しくソルの目に映る。
考えてみればたった16歳の子供なのだ、相手は。例えソルが人として長すぎる年月を持っていない立場だったとしても、カイは充分すぎるほどに子供だ。
その子供相手にこんなにも自分が心を乱されている。それを自覚してソルは自嘲気味な笑いを零した。
その笑いを自分に対するものだと受け取ったのか、カイの眼から一筋、涙が零れた。裾を噛み締めたままの唇から嗚咽が漏れることは無いが、涙は止まらずに溢れ続け、零れた脇から咥えた法衣に染み込んでいった。
「…………泣くな」
立ち上がり頬の涙を拭おうとすると、恐る恐る、といった感じでカイが目を開けた。その翡翠の瞳は快楽より強い怯えの色に満たされていて、それにソルは苛立ちを覚える。そうやって、カイが怯えるような行動を続けてきたのは自分だというのに。
片手で涙を拭いながら、もう片手で咥えさせた裾を外させようとするが、顎に力が入ってしまっているのか上手く口を開かせることすら出来ない。宥める様に髪を梳き、軽く抱き寄せてやればその感覚に戸惑いつつもカイはゆっくりと身体の力を抜いた。
それでも背後の書類棚に身体を預けるだけで、ソルにもたれかかってこようとはしない。
それにまた苛立って、ソルは強引に口から裾を抜き取り、唇を合わせた。
布地に吸い取られたのか、乾いてしまった唇を潤すように深く口付ければ、その感覚に酔ってカイは抱き寄せられる力のままにソルに身を任せた。
「ん…う…」
そうして暫くソルの口付けに溺れていたカイだが、ソルが抱きかかえる姿勢を変えようと片手を腰に延ばした途端、行為の先を続けられるとでも思ったのか過敏なほど大きく身体が震えた。それは恐怖とも期待とも取れる動きで、もう何度目だか分からない苛立ちをソルは抱えきれず、カイを問いただした。
「どうしたいんだ、お前は」
苛立った声に驚いたのか、それでもカイは柔らかく微笑んで見せた。
「ソルの…好きにしてください…」
その言葉は怯えた心が相手をこれ以上苛立たせないように言わせた言葉なのかもしれなかった。しかし、その笑顔は恐れではなく暖かな感情で満たされていて、ソルは言葉を無くして黙り込んだ。
「ソル…?」
それを不審に思ったのか、こちらを覗き込んでくるカイを強くかき抱いて黙らせる。腕の中で柔らかな金糸が揺れた。
「だったら、このままこうしていろ」
今の自分の顔を見られないように、しっかりと胸の中に抱きこむ。
そしておずおずとカイが背中に腕を回してくるのをまた強く抱き返しながら、これが最後だ、とソルは自分に言い聞かせた。
次の作戦の途中で行動を起こし、ここを逃げ出す。これ以上ここにいるわけにはいかない…カイのそばにいるわけには。
自分は、目的のために失えないものを増やすわけにはいかないのだ。
そんなソルの気持ちに気付いているかのように、カイの腕が少しだけ強く、ソルの背を締め付けた。




そして、運命の日は訪れる。





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