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   plaything   ・・・act 4
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ガタガタと風が窓を鳴らす音でカイは目を覚ました。
古い騎士団の寮は丈夫ではあるが、それゆえに建て替えなどには縁がなく、こういった細かい部分での老朽化が目立つ。
強風に歪む窓枠から外を見て、カイはそれほど自分が気を失ってから時間が経っていないのだと気付いた。
いつものように、突然深夜に現れた彼からの要求。しかし自分はそれに逆らうこともできず、ただ流されるだけだ。そして目覚めた自分の横には、もう彼の姿はない。ただ、かわりのようにいつも吸っている煙草が枕元のテーブルに置き去りにされていた。
「ソル…」
―――最初に、抱かれることを望んだのは自分だ。どんなにそれが許されないことだと知っていても、この身体はソルに触れられることを望み、その熱に溺れていく。
だってそれが、唯一ソルが自分に与えてくれるものだから。
ふぅ、と小さな溜息を一つついて、カイはベッドから起き上がった。欲望の後始末もされないままの身体は汗に塗れ、気怠い疲労感に包まれている。
強引な性交の名残に痛む身体を無理矢理に引きずってすぐ隣に設置されたシャワールームへたどり着く。こんなときばかりは設備付の個室を与えられる自分の立場を有り難く思った。
脱衣所にある大きな鏡。それに写る自分の姿は滑稽で、カイは乾いた笑いを零した。
男のくせに、その性別を感じられない身体つき。何故か日に焼けない肌も、細い手足も、何もかも自分では大嫌いなものだった。
でも今の自分は、その外見を利用して彼に抱かれ、引き止めているのだからそれが滑稽でなくてなんだというのだろう。白い肌に残る赤い鬱血の痕に指を這わせ、カイはまた一つ、溜息を零してからシャワールームへ足を踏み入れた。
「冷た…っ」
冷えたタイルに足を乗せ、シャワーの元栓を捻る。かなり熱めに設定した水温が冷えた身体と室内を暖めていくのに任せ、カイはしばらくその感覚に酔った。
流れる水の刺激は快楽の余韻の抜け切らない身体にはそれすらも愛撫となってカイを刺激する。そんな自分を浅ましく思いながらも、カイは気持ちとは裏腹に、自らの下肢へと指を這わせた。
泣きたくなる気持ちを堪えて、ゆっくりと指をソルを受け入れた部分に延ばす。震える指先を叱咤してその部分をこじあければ少しの刺激だけで内側からソルの残したものが零れ落ち、シャワーの湯に流され、消えていった。
「…っ、はぁ…」
甘く零れ落ちそうな吐息を堪えて、更に深く指を延ばし、中に残った白濁を掻き出せば、自分の指さえも締め付ける反応に、心底嫌気がさしてカイはその場に座り込んだ。
いっそ、この感覚に全てを任せて狂ってしまえればいいのに、自分の中の冷静な自分がそれを許すことはない。欲望に塗れた指を投げ出したまま、カイは堪え切れずに嗚咽を漏らし、シャワーの湯にそれを紛れさせた。狭い室内に叩き付けるような水音と、時折しゃくりあげるカイの声だけが響いていく。
「っく、うぅ…」
誰も見ていないという思いからか、まるで小さな子供のように泣きじゃくり、その涙さえもシャワーで洗い流す。
その姿を見るものは誰もいない―――はずだった。
カチャ、と固い金属製の音が響いて、カイがそれに振り向いたときはもう遅く、抵抗する間もなくカイの身体はシャワールームの壁に押しつけられていた。
湯煙と流した涙に雲って輪郭ははっきりとはしないけれど、それは間違いなく出ていったと思っていた相手で、カイは驚きを隠せないままに相手の名を呼んだ。
「ソル…?どうして…」
返事は無かった。こんな場所だというのに着けられたままのヘッドギアの下から覗く強いまなざしにそれ以上の問い掛けを封じられて、カイはただ身を竦ませる。裸の肩を押さえ付ける力は強く、身動きもできないままでいると、不意にソルの唇がカイの耳元に触れた。
「や…っ!!」
突然の感覚に首を竦ませてカイは抗ったが、ソルの動きを止めることは出来ない。押さえ付けた片方の手を外して同時に胸の飾りを押しつぶされれば、甘い声を堪えて震えることしか出来なかった。
「やだ…やぁ…ソル…!」
中腰の状態で壁に押しつけられ、快楽と姿勢の不自然さに膝ががくがくと震える。体重を支え切れずに座り込もうとすれば、ジーンズを履いたままのソルの足がその間に割って入った。
「…あぁ…っ」
濡れた布地が肌をくすぐる感覚にも声を堪え切れず、カイは羞恥のあまり固く目を閉じた。溢れた涙が閉じた瞼に浮かび、シャワーの流れも届かない壁際では、それは隠されることもなく頬に流れて落ちていった。
「…そうやって、どうせ泣くならやめちまえよ」
耳元を弄んでいたままのソルの唇が不意に告げた言葉に、カイは閉ざした瞼を大きく見開いた。
「ソル…?」
囁かれた言葉の意味を掴み切れずに、カイは不安げにソルの名前を呼んだ。滅多に聞くことのない真摯なソルの声に、心臓が痛いほどに高鳴っているのが分かる。
「やめちまえっていったのさ、坊や。泣きながらする相手とのセックスなんてこっちだってごめんだしな」
つまり、彼はこの関係を終わりにしろと、そう言っているのだ。
一気に身体中の血が引いたような感覚に陥りつつも、カイは必死にソルの身体にしがみついた。
「嫌…!絶対、嫌です…!!」
なりふり構わずにソルの背中に手を延ばし、カイは自らの身体を押しつけるようにソルを抱き締めた。まるで逃げていこうとする心を押し止めるように。
「嫌、嫌です…」
それ以外に気持ちを伝える言葉を持たないのか、ただひたすら嫌だと繰り返すカイに、ソルは呆れたように溜息を吐きつつも、次の瞬間には残忍な笑みを浮かべた。
「チャンスは与えた、これでも逃げねぇならこっちも好きにさせてもらうぜ」
言うが早いか、ソルの腕がカイの腰を抱えあげた。足下が宙に浮く不安定な姿勢にカイは驚いて、ソルに巻き付けたままの腕に力を込めた。その途端。
「ひっ…あ、あぁぁぁ…っ!」
浮かした腰にいきなり欲望を突き入れられ、予想もしなかった衝撃にカイは悲痛な声をあげた。性交の名残に濡れたままの部分は、突然の突き上げすら柔らかく包み込み、ソルを満足させる。しかしその反応とは裏腹に、カイは衝撃を堪え切れず、荒い呼吸でソルにしがみついたまま震えるだけだった。
「や…ぁ、あ、あぁっ…!」
切なげに嬌声を漏らし、カイは痛みと快楽をやり過ごそうと何度も頭を振った。無理な姿勢で全体重を繋がった部分にかけるわけにもいかず、必死に震える腕でソルに身体を預け、カイは乱暴な下からの突き上げに耐えようとした。
しかし揺さぶられることで与えられる感覚に、その腕にさえ力を込められずに、結局崩れ落ちるようにソルの腕に支えられるだけになってしまった。結果、今までになく深くソルの欲望を飲み込むことになってしまい、その感覚にカイは余計に強くソルを締め付ける。
「うぁ…ぁ、ソ、ソル…っ!」
「どうした、もう泣かねぇのかよ?」
律動に合わせて囁かれる言葉にも答えられず、カイはただ身体を震わせて襲い来る感覚に翻弄されていた。乱暴ながらも知り尽くされた弱い部分を刺激されれば、否応なく濡れた声で快楽を示すだけだ。
「ひっ…あ、ふぁ…あぁ…」
あげた声は狭い室内に反響して、聴覚からもカイを苛んだ。自らの浅ましさを知らしめるような声が響く中、カイは堪え切れずに濡れた瞳でソルを見つめた。
「どうせならもっと泣けよ…泣いて、こんなのは嫌だってお願いしてみな?」
見つめられた視線を受け流し、逸らした耳を執拗に愛撫しながら、ソルが呟く。
「本当は、俺に抱かれるなんて嫌なんだって、ちゃんと言ってみろよ、坊や」
告げられる言葉に反論しようにも、揺さぶられるままの身体はまともな言葉など口にすることは出来ない。それでもカイは必死に首を振って、ソルの言葉に否定を示そうとした。
…涙が出るのは、抱かれることを悔やんでではなく、身体は受け入れられても心が受け入れられないのが悲しいから。
しかし、そう伝えようにも、それは贅沢な自分のわがままに過ぎないと知っているカイは、ただ唯一の言葉でしか、その想いをソルに伝えられない。
それでも、少しでも想いを伝えようとして、カイは吐息混じりに何度もソルへと囁いた。
「ふぁ…っ、…す…き…、ソル、好き…で…」
本当は、すべてを受け入れてほしいけれど、貴方がそれを望まないのなら身体だけでも自由にしてほしい。それが愛じゃなくて、もっと都合のいいものに利用されているだけだとしても、私から貴方への気持ちは変わらない、だから…。
言えない気持ちを全て流していくように、シャワーの湯が抱き合ったままの二人を濡らしていく。続けられる律動にまた息を乱されつつも、カイは何度も思いを込めてソルの名を呼んだ。
「ソル…ソ…ル…っ」
お互いが吐く息の間隔が段々と短くなっていく。余裕のないカイの表情に煽られたのか、一層強くソルがカイを突き上げ、それにカイは悲鳴をあげ、締め付けながらもソルの背中に爪を立てた。
「ひぁ…あぁっ!」
それと同時に白濁を放ち、カイは力尽きてくたりとソルに寄り掛かった。そしてその最後の締め付けに欲望を注ぎ込み、ソルはカイの身体を抱き締めたまま、ゆっくりと床へ座らせてやった。



そしてまた、カイは窓枠が強く揺さぶられるで目を覚ました。ぼんやりした頭でまだ風は止まないんだな、などと考えてふと窓を見上げようとして寝返りをうつ。
その時、視界に飛び込んできたのは眠るソルの背中だった。
「え……?」
驚きの余り何度も目を瞬かせて、カイはそこにいるのが幻ではないと確認しようとした。夜も明けず、薄暗いままの部屋ではその表情を伺うことはできなかったが、そこに眠るのは確かにソルだった。
「…ソル」
その背中に腕を延ばそうとして、カイはその腕を自らの胸に抱き締めた。
―――これで、充分だ。
満たされた思いに、今までとは全く違った涙がカイの頬を流れる。それを拭き取ることもせずに、カイはそのままソルの隣に横たわった。
そして、小さな声でもう一度、思いを込めて彼の名を呼ぶ。
「ソル…」
背中を向けたまま眠る相手に届くことはないと知っていながらも、真摯な告白は続けられた。
「貴方が…好きなんです…」
届かないはずの思いを、逆に黙ったままの背中が受け入れてくれたように思えて、カイは微笑みの形のまま、ゆっくりと瞳を閉じた。



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