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   観用少女〜Eternal Date 〜    ACT.1
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賞金稼ぎとしての仕事を終え、換金を済ませ次のターゲットを探す。そのための情報を探しに出た街で、ソルはそれに出会った。
昼間だと言うのに妙に薄暗い路地裏に、場違いな店構え。
そして、大きなショーウィンドウに飾られた美しい人形に目を止めたのは、ただの偶然だった。
「…何の店だ?」
思わず足を止めて、ソルはウィンドウを見上げた。
飾られている人形は、美しくはあるが悲しげな雰囲気を帯びていて、それはまるで作り物ではないようだった。
ライトに照らし出される色素の薄い肌も、切り揃えられた金糸の髪も、整いすぎた顔立ちも、それが人形であると思わせるのに。
ただ、閉じたままの瞳が泣いているようにも見えて、ソルはしばらくその人形に見入っていた。

「おや、その子がお気に入りですか〜?」
その空間を破ったのは、店構えとは別の意味でこの場にそぐわない---いや、どこにいても違和感は拭えないだろう、人とは思いがたい長身に、頭から紙袋を被った男だった。
ウィンドウの横にあるドアから文字通り首を延ばしてこちらを伺う人物に、ソルは怪訝な面持ちで尋ねた。
「売り物なのか、これは」
「ハイ、それはプランツドールの『カイ』といいます…商談でしたら、中へどうぞ」
そう言うが早いか、内側からドアを開かれる。
旅の邪魔にしかならない「人形」になど、本来興味などなかったが。このまま立ち去ることもできず、ソルは導かれるまま店内に足を踏み入れた。


路地よりは明るい店内は、同様の人形たちで飾られていた。髪の長いもの、短いもの。そして長いドレスで身を飾ったものがほとんどだ。そういえば、先程の人形はここにある人形よりは地味な(よく言えばシンプルな)服を着ていたようだったが。
どっちにしろ、賞金稼ぎなどを生業にしている自分が似つかわしい場所ではない。居心地の悪さを覚えながらも、ソルは勧められた椅子に腰掛けた。
「『カイ』とここの子たちを比べていますね?」
暖かい紅茶を振る舞いながら、紙袋の男が問う。
「…まぁな」
「申し遅れましたが、わたしはファウスト。ここでこのプランツたちの世話をしています」
「プランツ?」
「正確には、プランツ・ドール。愛を糧にして生きる人形たちですよ」
自分達のことを話しているのに気付いたのか、回りに飾られた数体の人形が緩やかに反応を返す。
「生きている…人形?」
「もちろん、心もございます。そしてこの子たちは、自分で持ち主を選ぶこともあるんですよ」
---愛を糧にし、自ら心で持ち主を選ぶ人形、だって?
そんな存在が信じられずに、ソルは更にファウストを問い質した。
「売れるのか?そんなものが」
「ご覧のとおり美しいものですし、お値段が少々張るものですから、ステータス代わりにご購入される方などいらっしゃいますよ。まぁ、そういった場合『愛』が足りずにプランツが枯れてしまったりするのですが…」
そう言って遠い目(紙袋に隠されているのであくまでもソルがそう感じただけだが)をするファウストを置いて、ソルは先程覗いたショーウィンドウの方に足を向ける。
ショーウィンドウの裏側から見た『カイ』は、やはり何故か悲しげな雰囲気を漂わせているように思えた。シンプルなドレスに肉付きの薄い身体を包み、ただ瞳を閉じて座っているだけなのに。
「『カイ』は、ちょっと特殊な子でしてねぇ…男性型なんですよ。それに、心が優しすぎる」
「…男性型?」
これが?、とソルはファウストの言葉に目を見張った。
言われてみれば、いくらなんでも女にしては身体の丸みがなさすぎる…気もする。座っているため正確にはわからないが、身長も低くはないようだ。
「稀にいらっしゃる嗜好の変わったお客様のために、ごく少数ですが男性型も取り扱っておりましてね。余りにも少数なので専用の衣装がないので、せめて飾り気のないものを着せてあげているのですが」
それでこいつだけ妙に地味なのか、と納得しつつも、ソルはファウストのもう一つの話が気にかかっていた。
「心が優しすぎる、ってのは?」
「…どうやら以前に買われていった先で、悲しい目にあったようでしてね。以降目を閉じたまま、何も見ようとしないんですよ」
---優しすぎる故に、全てのことから目を逸らした人形。
「本当は、綺麗な翡翠の瞳をしているんですがねぇ…」
「………」
黙り込んでしまったファウストをよそに、ソルは無言でショーウィンドウの扉を開けた。
音に反応して振りかえる身体を肩に担ぎあげ、ウィンドウから引きずり下ろす。『カイ』は抵抗しなかった。
「お客様…」
「面白いからこいつを買う、金はそこにあるので足りるか?」
顎をしゃくってみせた先には、交換したばかりの賞金がつまった袋。
どうせ、使う宛もない金なのだ。その翡翠の瞳とやらを拝むためだけに使ったところで困ることもない。
袋の中身を確かめたファウストが、何も言わずに首を縦に振ったのを見て、ソルはそのまま『カイ』を抱えたまま店を後にした。




ソルはカイの身体を抱えたまま路地裏を歩き、薄汚れた宿へとたどり着いた。
物騒な雰囲気の男とドレスを着た(一見)女、という組み合わせを訝しがる店主を視線で黙らせて、部屋へ案内させる。
着いた部屋で身体をベッドの上に降ろしてやれば、戸惑いつつもカイは行儀良くそこに座ってみせた。
「…おい、目を開けろ」
しかし、ソルの呼び掛けに反応を返すことはなく、ショーウィンドウにいたときのように、ただ目を閉じて黙り込むばかりだ。
「…そう簡単に見れるものでもねぇか」
それほど期待して声を掛けたわけではなかったソルは、座り込んだベッドの脇に自らも身を投げだすと、同じように目を閉じた。
そして、柔らかなドレスの裾を指先に絡めて呟く。
「服くらいは、買ってやるか」
『愛』を与えることなど出来そうにない自分の元では、どうせ枯れてしまうだろうけれど。
その短い間くらい、払った金額分くらいは手間をかけてもいいだろう---そう思いつつ、そのまま眠りに着いたソルの横で、人形はやはり、悲しそうな顔をしていた。


そして翌朝、目を覚ましたソルの目の前に流れる金色の髪。
一瞬、何事かと思い目を擦れば、自分に寄り添うように眠るカイの姿があった。
「寝てる…のか」
触れた身体は暖かく柔らかで、耳を澄ませば小さな吐息が聞こえてくる。
人間と何も変わらないな…とその寝顔を眺め、悲しげに顰められた眉にソルはファウストの言葉を思い出した。
「悲しい目にあった、とか言ってたな…」
それは、眠っている間にも心を苦しめるようなことなのか。
うなされる程ではないが、苦しそうな寝顔に手を延ばし緩やかに頬を撫でてやれば、その感触にふっ、とカイの表情が和らいだ。
しかしそれで目を覚ましてしまったのか、目は閉じたまま身を起こそうとするのを手で制し、ソルは自分だけが立ち上がった。
「お前の服を買ってくる、そのまま寝てろ」
足下に放られていた荷物を手にとり、ソルはそのまま背を向ける。
その瞬間、また曇ったカイの表情には気付かずに。


それから数日は、ソルと人形の奇妙な同居生活が続いた。
ソルが新しい賞金首についての情報を探し、借りた部屋に戻れば、人形は変わらずにベッドに腰掛けている。
ソルもまた、最初の日以来「瞳」の話をしようとはしなかった。
ただ、ソルが眠るときにはカイも寄り添って眠るだけ。
---不思議なのは、カイに一向に『枯れる』兆しがないことだった。


しかし、そんな生活が長く続くはずもなく。
追い詰めた賞金首の本拠地がここから随分と遠くにあると突き止めたソルは、部屋に戻った途端に荷物をまとめ始めた。
いつもと違う様子に気付いたのか、カイの表情が戸惑いに揺れた。
「この先の国へ行くことになった。悪ィが、てめえを連れていく余裕はねぇ」
そう言って、ソルはカイの髪に触れた。
この先の国は、いまだ聖戦の傷跡も癒えず、貧困の差が激しいところだ。そんなところに高級品であるプランツドールを持ち込めば、要らぬ騒動を起こすだけだろう。
「…結局、枯れもしなければ瞳も見れないままか」
独り言のようにソルが呟き、絡めた指でそのまま頬を辿る。
そのとき。
その指先に湿った感触を感じたかと思えば、瞬く間にそれはソルの手の中で宝石へと変わった。
「なん…だ?」
驚きの余り呆然とそれを受け止めながら、カイを見れば、潤んだ瞳を隠そうともせずに、ただ涙を零すカイの姿があった。
翡翠の瞳、と例えられていたが、それよりも鮮やかな色彩を放つ、澄んだ瞳。
そして、その瞳から零れた涙はあとからあとから宝石に姿を変えていく。
「…どうなってやがる」
状況が飲み込めず、ただ立ちすくむソルの手に、ゆっくりとカイの手が重ねられた。
「…いかないで」
震える唇から紡ぎ出される声に、ソルは更に驚き、目を見張った。
「しゃべれたのか、お前……!」
驚愕を隠しもせず、ソルはカイを見つめた。相変わらず悲しげにしかめられた表情のまま、カイは続ける。
「…お金が必要なら、その宝石を売ってください」
「……?」
「だから、だから賞金稼ぎなんて危ないことはやめて、いなくならないで…!!」
そう言い、またぼろぼろと涙を零す。しかしソルはもう、その宝石を受け止めようとはしなかった。かわりにカイを抱き締め、その身体を胸の中に引き寄せる。
そうして、カイが落ち着くまでゆっくりと背中を撫でてやり、その途中、カイがぽつりぽつりと話す、『過去』に耳を傾けた。

---以前に買われた家では、小さな少女の相手役として買われた。
しかし、その家はその富を狙う強盗に侵入され、その子どもごと殺されてしまったこと。皮肉なことに、その家で一番価値のあるものはカイ自身だったわけだが、カイはその間、何もできずに子どもが殺されるのを見ていた。
人形には、それを止める力がなかったから。
「私の前で、これ以上失われるのは、嫌です…!」
カイは、何もできなかった自分を責め、それに絶望して瞳を閉じた。
しかし、いまこうしてソルに買われ、その相手はまた危険な目に遭おうとしている。
それなのに、泣くことしか出来ない自分。
話している間も、カイは縋るようにソルにしがみつき、ここにいてくれと繰り返した。
しかし、ソルはその腕を引きはがし、カイにこう告げた。
「俺は、金が欲しくてこんなことをしてるわけじゃない」
「………?」
「賞金稼ぎは情報収集のついでみたいなもんでな。本来なら必要ないくらいだ」
「じゃあ、どうして…?」
不思議そうに問い返すカイに、少し迷ってからソルは続けた。
「…今度の賞金首は、でかい窃盗団だ。放っておけばまた、その家族のような被害者が出るだろう」
その言葉に、カイの表情が強張った。顔を青ざめさせるのを頬を撫でることで落ち着かせてやり、ソルはゆっくり、カイに告げた。
「ついて、くるか?」
「私が…?」
「目を逸らすくらいなら、てめえでも出来ることがあるかもしれねぇだろ」
戦い方なら教えてやる、と更に続ければ、驚きに涙を零すことさえ忘れていたカイが、真っ直ぐにソルを見つめ、必死にソルへと訴えかけた。
「お願いします、私も、連れていって…!」
もう何もできないと嘆くばかりの自分ではいたくないのだと、その瞳が告げていた。
その瞳は生気に満ちており、どんな宝石よりも美しく輝く。
それを見ながらソルは、安い買物だったのかもしれないな、などと思っていた。
…もちろん、既にカイを人形などとは思えなくなっている自分を自覚しながら。






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