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   HURRY FOR WORKING LOVERS  ・・・ACT.1
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「最近、瀬戸口と仲がいいようですね」
「・・・・・・唐突に、また随分と意外な事を聞くわね、社長」
 思わず書類を取り落として、原は唖然とした様子を隠さずに善行を見つめた。
 対する善行は、特に表情を変えるでも顔色を変えるでもない。ずれてもいない眼鏡に指をかけ、くい、と押し上げただけだった。
 床に落とした書類を拾いながら、原は珍しい事もあるものだ、と驚きに何度か目を瞬かせる。彼が他人の人付き合いに口を出す事は本当に滅多にない事だ。奥様の井戸端会議よろしく、噂話に花を咲かせる事はともかくとして。
 珍獣でも見るような視線を送る原に、しかし善行はさして動揺もせず呟いた。その声にはやはり抑揚はない。
「連れ立って出かけた、という噂をよく耳にするだけですよ」
「耳の早いこと。さすが奥様ね」
 冗談めかして原はころころと笑った。
 こうして二人きりになると、原は秘書としての仮面を外す。その切り替えは実に鮮やかで、善行をも時に戸惑わせるほどだった。まるで、別人を相手にしているような気分になる。
 そうであることを望んだのは、元はと言えば自分なのだけれど。
 原に悟られぬようひっそりと息を吐いて、善行は重ねて尋ねた。
「これまでは、プライベートではさほど付き合いはなかったと記憶していますが」
「そうね。イイ男だけど、私の好みじゃないもの」
 さらりと言ってのけた原は、ようやく拾い終えた書類をまとめてデスクの上に置いた。
 そのまま上体を折って、デスクに肘を付く善行に顔を近付ける。ふわり、と香ってきた香水の匂いに、善行は軽い痺れを覚えた。
 しかし原は、そのまますい、と体を起こして悠然と腕を組み善行を見下ろした。
「先輩として、後輩の相談に乗るのがそんなにおかしな事?」
 今度は善行も、素直に驚きを顔に表した。後輩とは、何ともそぐわない単語だった。
 確かに瀬戸口は、入社も原より若干遅れており、形式上は秘書室長の原の後輩に当たるのだが、周りの誰より彼女自身が、瀬戸口の事を後輩としてというより対等な仕事仲間として扱っている。
 瀬戸口も同じく、要所要所ではきちんと自分の立場を弁え原を立てているけれど、普段は先輩後輩を意識している風ではない。
 そういった二人の関係を知るからこそ、耳に入った噂が気にかかった訳だけれど。
 しかしあの瀬戸口が、一体原に何を相談するのだろう、と単純な興味で眉を顰めた善行だが、原はそれには気付かず、思い出したついでというように呟いた。
「新人の壬生屋さんも真面目でいい子よ。調教しがいがあるわ」
「・・・調教、ですか」
「ええ、色々仕込むつもりよ? ナンパ男のあしらい方、とか」
 悪戯っぽく片目を瞑る原に、善行はなるほど、と小さく溜め息をついた。
 先日挨拶に来たばかりのその新人に、瀬戸口があれこれとちょっかいをかけているという話も、その噂と同時に耳に届いていた。
 壬生屋は、外見からしてもそうだが、世間ずれのしていない、いかにも純粋培養のお嬢様、といった女性だった。瀬戸口のような女性関係に――よく言えば人付き合いに、ある種の軽さを持つ人間とは、絶対に気のあわなそうな。
 余計な騒ぎにならなければいいが、と眼鏡を押し上げると、ふと原が机に手をついて顔を近付けて来た。先程よりも近く、今度は明確な意図を感じさせて。
「ねえ・・・妬いてくれてるの?」
「・・・・・・どうでしょうね」
 甘く微笑む彼女に、善行は曖昧に笑ってみせた。ここで素直に頷いていいものか、咄嗟に答えが出なかった。情けない事ではあるが。
 彼女を突き放したのは、そう遠い過去の事ではない。
 社長の任に就くことになったのは突然で、何の準備も心構えもなかった。社長としての仕事をこなす自信は充分にあったが、仕事が軌道に乗るまでの数年は、彼女に割いてやる時間はおそらく持てまいと、自分の力を公平に評価した上で善行はそう判断した。
 自分は、残酷な男だ。目の前の仕事と彼女とでは、きっと仕事を優先する。それは、誰より彼女自身がよく知っている事でもあった。
 だから突き放したのだ。はっきりと別れを口にした。必ず迎えに来ると、そんな約束一つもしてやれないのだ。自分の勝手で繋ぎとめておくのは哀れだと、そう思った。
 しかし原は、ついてきてしまった。強引に。自分の言葉も聞かずに。
 無邪気な顔をして、『秘書の資格を取っておいて良かったわ』と微笑んで。
 結局の所、彼女の気持ちに甘える形となってしまった。仕事でもプライベートでも、彼女は何の我侭も言わずに、自分の傍で自分のサポートをしてくれている。
 今ではもう、手放す事も考えられない。
 善行はす、と視線を上げて、間近から原を見つめた。
 眼鏡の奥からの鋭い、そして強い感情の浮かんだ眼差しを受けた原は、一瞬はっとしたような顔になった。軽く瞠られた瞳の幼さに、善行はふ、と表情を緩め頬に手を伸ばす。
 触れた滑らかな頬は、暖かだった。何度か撫でてやると原は目を細めて微笑んで、机に体を乗り出して善行へと唇を寄せた。
 しっとりと濡れた感触。口紅の味に、善行もゆっくり目を閉じる。
 仕掛けられた口接けは、官能的だった。掠めるように触れ、離れ、そしてまた深く触れ合う。巧みに欲情を誘う、甘いキス。
 熱い吐息を漏らしながら舌を差し入れ、絡めとり、吸い上げてと積極的な口接けを施す原に、善行は抗わず好きにさせた。たまにはこういうのも悪くないかと、じんわりと熱さを増してゆく頭で思う。主導権を完全に握られたキスは、ひどく心地好かった。
 長いキスの後、ゆっくりと余韻を残して唇を離した原は、僅かに上気した頬を幼く膨らませた。
「何よ、呆けた顔して」
 何か不満でもあるのかとむくれる原に、善行は苦笑した。彼女は時折、自覚しているのかしていないのか、こうしてアンバランスに、少女の顔を覗かせる。学生時代の、何にも煩わされずお互いだけを考えていられた、懐かしい時代の表情だ。
 善行は彼女を宥めるように指先を滑らせ、耳に悪戯を仕掛けながら弁解した。
「いえ。キスは上手くなったな、と思っただけですよ」
「・・・キス『は』、ね。先生がよかったんでしょう」
 なおも不満げに唇を尖らせた原は嫌味たらしく呟くと、善行の頬から手を外し、両手を机についてさらに体を乗り上げた。
 しなやかに伸びる足を窮屈そうに曲げて膝を机に乗せ、そのまま腰をついてすらりと善行の目前に足を投げ出す。魅惑的な曲線に、しかし善行は軽く溜め息をつくだけに留めた。
 誘うように足を組み替えてみせる原を椅子の上から見上げて、善行はそこでやっと薄く笑った。
「じゃあ今日はもう少し、他の事をご教授しましょうか?」
 尋ねる声を投げかけながら、善行はつ、と足のラインへ指を滑らせた。
 踝から膝、そして内腿へ。ストッキングの上からの刺激がもどかしいのか、それともくすぐったさからか、指を動かすたび足は小刻みに震え、紅い唇からは切なげな溜め息が漏れた。
 スカートの中に手を滑らせた善行は、爪を引っ掛けないよう注意しながらストッキングに手をかけ、嫌味なほど丁寧にそれを脱がせていった。
 手の動きにあわせて足を動かしながら、吐息に混ぜて、原はぽつりと呟く。
「仕事中に、いいの?」
「誘ったのはあなたでしょう」
 今更だと軽く答えた善行は、もう片手を腰に伸ばして机の上に座る原を引き寄せた。細いが女性らしいふくよかさを持つ柔らかな体が腕の中に落ち、心地好い重みで椅子を軋ませる。
 視線が、息も触れる距離で絡み合った。暗く深い色の瞳。冷たい色は、炎のような熱さを伴って鈍く煌いた。
 間近から見つめる原は、例えようもないほどに美しかった。
 うっすらと赤く上気した頬も濡れた唇も、壮絶な色気を纏って善行を誘う。
 香水とは違う、肌から直接たちのぼる女の香りが、強く、きつく、劣情を煽った。芳香に心地好く酔いながら、善行は乱したシャツの裾から手を差し入れた。
「集中して下さい」
「あ・・・っ」
 触れた手の冷たさにまず驚いた声が上がる。しかしそれも体温の上がった肌に這わされる事でやがて同じ温度となり、今度は確かな快楽を原にもたらした。
 手が滑る、それだけでまた、温度があがる。



 原は自ら上着を脱いで床に落とし、その手を善行の首元へと運んだ。きっちりと締められたネクタイを引き、シャツのボタンを一つ、二つと外して、肌蹴させた首筋へと唇を寄せる。
 吸い付かれる感触に軽く肩を竦めてやりながら、善行は緩く胸を撫で刺激し、体を押すようにして顔を上げさせた。
「見える場所は困りますよ。まだ、これから仕事が残ってるんですから」
 平然と言ってのける声からは、全く困った様子は窺い知れない。確かに、社のトップに立つ人間が見える位置にキスマークを付けて歩く訳にもいかないのだろうが、強く咎めるでもない様子に、原は小さく舌を出してやった。
「全然困ってないくせに。どうせ見咎められたって、虫刺されですよ、って平気な顔するんでしょう」
「・・・猫に噛まれたとでも言い訳しましょうかね」
「何よ、それ・・・っ!」
 反論の声は、奥まった部分に指を滑らされる事で封じられた。
 既に濡れた入り口を割って、やんわりと中に潜り込んで来る指の動きは、焦らすように緩やかだ。原はたまらなくなって善行の首にしがみ付き、その耳元で荒く息を吐いた。
 熱い吐息が、声を形取って鼓膜を震わせる。
 善行は細い腰に手を添えて足を開かせ、昂ぶった自身を入り口にあてがうと、そのままゆっくりと腰を落とさせた。肩に縋り付いていた手が爪を立て、小刻みに震えた。
 熱く蕩ける媚肉をかきわけて、最奥へと欲望を突き入れる。抑えた声が静かな室内に零れ落ちた。
「ふ・・・あ、んっ」
 この場所が社員たちが働く職場とは離れた社長室とはいえ、会社内である事には違いがない。周囲に気を使ってか、形のいい指先に噛み付いて声を殺した原を、善行は宥めるようにそっと抱き締めた。
 けれど、ここまで来て行為を止めるつもりはない。痕の付いた指を唇から外させ、善行は原の髪に指を差し入れて自分の肩へと押し付けた。
「指に傷をつける位なら、肩にでも噛み付いててください」
「・・・猫に噛まれたって、言い訳するつもり?」
「肩なんて、あなた以外には誰にも見せませんよ」
 苦笑に混ぜて呟いて、善行は下から原を揺すりあげた。抱き込んだ体はビクリと震えたが、声は漏れず、肩に痛みはない。唇を噛んだか何かしたのだろう、と善行は苦笑を深くした。全く強情な事だが、それもまた彼女らしく可愛いと思う。
 善行のシャツの上で掠れた声を吐いていた原は、不意に顔をあげ、するりと頬に手を滑らせると、潤んだ瞳で善行を見つめた。
「・・・ねえ、妬いてるの」
 二度目の問いかけは、確信に満ちたものだった。早鐘を打つ心臓の動きそのままに胸を上下させ、悪戯っぽく微笑んだ表情で原は善行の答えを待つ。
 今度は迷わずに、善行はゆっくり頷いて見せた。
 しかし原が反応するより早く、また体を揺さぶって声を殺させる。シャツが引かれた感触。肩ではなくシャツに噛み付いたようだった。
「あなたは、私が仕事以外の何にも気を煩わせる事のない、冷血人間だと思っているようですが・・・」
 耳に近い位置で漏れるくぐもった喘ぎを楽しみながら、善行は行為に僅かに乱れた低い声で囁いた。
「あまり、煽らない方がいい。私はそう優しい男じゃない」
 声に重ねて、また深く突き上げる。悲鳴に近い高い音をどうにか喉の奥に閉じ込めた原は、体を支える腕にきつく爪を立てて復讐した。鋭い痛みに思わず顔を顰め、動きが止まった間に原はシャツから唇を離すと、切れ切れに言葉を紡いだ。
「あなたこそ・・・私が、いつでも秘書の顔ができる・・・ような」
 一旦言葉を切った原は、するりと手を善行の頬に滑らせた。正面から顔を向かい合わせて、視線を絡み合わせながら唇を寄せる。
 先程の、淫を強く含んだキスとは全く違う、触れ合うだけのキスだった。
 初々しさと不器用さの垣間見える口接けに、善行は眼鏡の奥で目を瞬かせたが、原はそれに気付いたのかそうでないのか、切なげに声を零しただけだった。
「器用な女だなんて・・・おもわ、ないで・・・」
「・・・そんな風に思った事は、一度もありませんよ」
 汗の伝う顎に、首筋にと舌を這わせながら、色を帯びた肌に息を吹きかけるようにして善行は笑った。
 確かに、彼女はどんな事でも器用にこなす才女だ。周囲の誰もが彼女をそう認識し、彼女自身もその期待に応えてきた。それは、よく知っている。
 けれど自分にとっては、そうではない。
 善行は一際強く腰を揺らして突き上げ、唇を触れさせながら囁きかけた。
「私の前のあなたは、いつでも、一人の女だ」
「あ・・・っ、ん・・・!」
 高い嬌声が、口接けの中に消えていく。最奥まで貫かれた刺激に原はきつく善行を締め付け、放たれた欲望を全て呑みこんだ。
 未だ体を繋げたまま、原は苦しげに大きく息を吐いた。声を殺しながらの行為は呼吸もままならなかったようで、さすがに負担が大きかったのだろう。
 そうしてしばらく身も繋げたまま息を整えていた原は、ゆっくりと体を引き結合を解いた。埋められていたものが引き抜かれる感覚、包み込むものがなくなる感覚は、妙な寂しさをお互いに残した。
 身と心とに染み付く名残惜しさに少し思案した善行は、ふと思い付いて原の腕を引くと、彼女がしたのと同じく、襟に隠れるか隠れないかといった微妙な位置に唇を寄せた。
「え、ちょ・・・っ」
 くすぐったさに身を捩る原を抱きすくめ、少し強く吸い付く。そうしてやっと善行の意図を知った原は、慌てて身を離し襟をかきあわせながら、甘い痺れを残す首筋に手をやった。しかしもう遅い。白い指先の下には、鮮やかな赤い華が咲いていた。
 恨めしげに睨み付けてくる視線は、行為の余韻に潤んで艶かしい。善行は床に落ちたままだった上着を拾い上げ、原の肩にかけてやって、悪びれた風もなく言った。
「今日はもう帰りますよ。・・・今度は二人きりの部屋で、声もちゃんと聞かせてください」


 残っていた仕事は明日に回す事に決めて、荷物を取りに行った原とロビーで待ち合わせた善行は、少し早足に社内を歩いた。
 まだ残っている社員に一人ずつ挨拶をし、きびきびと廊下を歩くその姿には、先程までの情事の匂いはどこにもない。
 ただ一つ、襟に見え隠れする位置についた、紅い華を除いては。
 鮮やかな赤い色が二人だけの秘め事の証だと思うと、らしくもなくこそばゆい気持ちになる。自然とこみ上げてくる笑みに、これでは子供と変わらないな、と溜め息をついていると、不意に高い声が耳に届いてきた。
 声のする方を見やれば、二つの人影。赤茶の頭の長身の青年と、黒髪を腰まで伸ばした女性のシルエット。見慣れた顔だ。二人とも原の同僚で自分の秘書である。
 様子を窺ってみると、薄ら笑いを浮かべている瀬戸口に、壬生屋が顔を真っ赤にして何やら怒っているようだ。
 またか、と苦笑を浮かべつつ何歩か近付くと、二人もこちらに気付いたようで、はっとなって居住まいを正した。
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です!」
 軽く声をかけると、壬生屋の方が元気よく挨拶を返し、深々と頭を下げてきた。大して瀬戸口は、軽く頭を下げただけである。
 人の楽しみを邪魔しやがって、といったところであろうか。社長に対する態度とは思えない、いかにも不満げな態度だが、善行は特に何も言わなかった。彼のこういった率直な部分は嫌いではない。
 ゆっくりと頭を上げた壬生屋に、善行は他の社員たちと同様に労いの言葉をかけてやって、その場を辞そうとした。これ以上邪魔をしたくないというよりは、ロビーで原を待たせる事の方が気にかかる。
 すい、と体を逸らしかけた善行に、ふと壬生屋が声を掛けた。
「あの、社長?」
「何ですか?」
「その・・・首の所、赤くなってますけど、どうかなさいましたか?」
 目ざとく襟元ぎりぎりにつけられた徴を見つけ、気遣わしげな顔をした壬生屋に、善行が反応するより早く背後の瀬戸口がぶっと吹き出した。
 しかし壬生屋はまるで気付く風もなく、首を傾けるようにして顔を近付け、まじまじとそれを見つめた。
「虫刺されでしょうか・・・それならわたくし、薬を持ってますから」
 言うが早いか、鞄に手を入れた壬生屋を、善行は苦笑して留めた。
 キスマークだと後ろ指さされるのならばともかく、こうして何の悪意もなく真剣に心配されると、彼女の真面目な性格のせいもあって、どうにも強い罪悪感がこみ上げてくる。
 背後をみやれば、やはり瀬戸口はどうにも口を挟めずに笑っていた。まあ当たり前の反応だろう。善行は視線を壬生屋に戻した。
「いえ、これはいいんですよ。痛みも痒みもありませんから」
「でも・・・」
「少し、くすぐったいですけどね」
「??」
 綺麗な青い瞳を丸くして、壬生屋は何度か瞬きしつつ善行を見上げた。
 善行は優しくその視線を受け止めて微笑むと、つい、と後ろの瀬戸口に一瞬だけ眼差しを投げかけて囁いた。
「あなたも気を付けてください。特に、紫の目の悪い虫にはね」
 大きく目を瞠った瀬戸口と、未だ訳もわからないと首をかしげた壬生屋に軽く手を振って、善行はそのまま身を翻した。
 壬生屋がその言葉の意味を知るのは、おそらくそう遠くはないだろう。
 そしてそれを教えるのは、自分の役目でも原の役目でもない。
 背中に二人分の視線を受け止めながら、善行はそこで彼女らについての思考を消し去った。そう、他人の事などに構っている余裕は、自分には欠片もないのだ。
 階下に見える美女は、柔らかな微笑を浮かべて自分を待っている。






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